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制作メモ「たまの映画」

「独創的な音楽性で異彩を放ち、2003年に解散した伝説のバンド「たま」の軌跡と現在を追った音楽ドキュメンタリー。1984年に結成されたバンド「たま」は、テレビ番組「三宅裕司のいかすバンド天国」で一躍注目を集め、1990年に「さよなら人類」でメジャーデビューを果たす。社会現象的な人気を集めるが、メンバーの脱退などを経て2003年に解散。時代や環境が変化していく中でもファンを魅了する音楽と、自分らしい生き方で表現し続ける石川浩司、知久寿焼、滝本晃司の姿を映し出す。」(公式イントロダクションより)


ポスター、パンフレット、その他グッズなどのデザインを担当させて頂きました。

最初に映画の話を耳にしたのは2009年6月。当時私は滝本晃司さんの詩画集出版を実現させようと、持ち込み活動で走り回っている真っ最中。
(後の「つづくこと つづくとこ」詩:滝本晃司 絵:Murgraph 2010年 創英社刊)

一人で思い立って動いていたのですが、「この素晴らしい人達を”何らかの形で取り上げたい”と考える人は他にも絶対にいるはずだ」と強く思っていました。

なので、石川浩司さんの当時のマネージャーMちゃんから「きしこさんに会わせたい人がいます。実はたまの元メンバーの現在を追うドキュメンタリー映画の企画が立ち上がっています!と連絡をもらった時には「やっぱり、いた!!!」と本当に嬉しくて、メールを読みながらわなわなと震えました。

意欲に燃えていたその頃の私のパワーは凄まじく。話を聞いた時点で「絶対に私がポスターを作りたい!」と手が動き始めてしまい、ほどなくして映画製作・配給会社の三輪麻由子さんにお会いできたその時には、既に原案が出来上がっていました。
それがこちら。

「after stories」のフレーズはどこから出てきたのか記憶に無いのですが。勝手に自分でくっつけたのでしょう。

さすがに初対面で「私が作ります」とは言えませんでしたが、その後何度かやりとりをしていく中で「お願いできませんか」とご依頼を頂きました。とっても嬉しかったのですが、よくよく話を伺うと今回の企画はほんとーーーーに予算が無く、映画製作その物すらギリギリの状況との事。

普段の仕事で「出版業界は厳しい」とはよく実感していましたが、映画業界のそれは想像以上でした。ここで私が受けなければ低予算なりの手数で済ませた適当な物が出来上がってしまうかもしれない…それはファンとして寂しすぎる。ちゃんと彼らの世界に理解と愛情のある人が作らないと!


そんな経緯で、晴れて私が担当させて頂く事となりました。

 


 

さて、いざ制作!となると気になるのは素材。

映画のポスターとなれば上映内容とリンクした写真素材が必須です。しかし今回はスチール撮影は行なわず(予算とメンバーさんへの負担を考慮)映像素材から抜いた画像しか使えないとの事。

映像から抜いた画像では解像度が小さ過ぎて画面が持たない…そこで考えた対策が下記の二つ。

その1「写真は角版ではなくキリヌキで使用」
角版=背景込みの四角い画像。輪郭に沿って切り抜けば、アウトラインはぼやけずに済む。幸い私の原案はこの手法が当てはまります。
その2「クオリティの高いイラストで画面を充実させる」
これについては強力な助っ人の心当たりがありました。

それは、たまファン仲間でもあるイラストレーターのコンドウエミさん。コンドウさんは様々なタッチを描き分けられる方で、そのバリエーションの中に「リアルタッチ」がありました。
たまにまつわるモチーフをちょっと怖めなリアルタッチで描いたら、ぴったりの世界観が出来上がるのでは?
早速コンドウさんに相談し、二つ返事で引き受けてもらいました。

 


 

描き起こしてもらいたいシチュエイションは既に頭に浮かんでいました。

ステージをイメージした空間。その象徴として画面全体を覆う「幕」。これは当時のファンはもちろんYouTubeで動画を見ている最近のファンも知っているであろう、東京グローブ座ライブの情景です。途中で脱退した柳原陽一郎さん参加のラストライブもこの赤い幕の下で行われました。

また、小道具としてギターや太鼓などの楽器これらは雑誌資料をもとに正確に再現。(後に知久寿焼さんより「ギターをちゃんと描いてくれて嬉しかった」とのお言葉を頂きます)
他には金魚の蘭鋳(知久さんの代表曲「らんちう」のモチーフ)やかたつむり亀、きのこなど、彼らの世界観から抜粋。どんなモチーフを入れようかとコンドウさんとアイディアを出し合う作業は楽しかったです。

 

以下はボツ案スケッチ。


「くすり屋看板」
昭和レトロな雰囲気。

 

 

「線路」
電車や汽車は度々歌の中に登場します。

 

 


「顔のYシャツ」
説明不要。笑 存在感が強すぎてボツに。

 

 

そして、右端でこちらを見つめる牛。


この牛はずばり、柳原さんをイメージしています。

 

当初の企画は「元メンバー4人全員に取材を行う」という内容で、三輪さんは柳原さんにも根強く取材オファーを送っていました。
断られても断られても「諦めませんよ!」と
柳原さんのライブ会場へ向かう三輪さん。
私も「三輪さんの熱意と誠意のある態度に、そのうち柳原さんも折れて応じてくれるのでは…」と希望を持ちつつ応援していました。

でも「もう本当に諦めなければいけない」というタイミングが、やがてやってきます。
柳原さんは決して頭ごなしに門前払いをしていたわけではなく、とても丁寧に対応してくださったそうです。
だからこそ、こちらもそんな柳原さんの意思を尊重したい。

 

…でも、でも、やっぱり悲しい。。やりきれない。。

4人が同じ画面に収まったポスターを作るつもりでいたのに。。

 

 

よし!そういう事ならこうしてやる!

※柳原さんにはたま時代に「牛小屋」という曲があり、ソロ活動でもよく牛をモチーフに使われています。
「ウシはなんでも知っている Original recording」
「いつかウシになる日まで~柳原陽一郎ドキュメント’07~’08」

 

柳原さんの存在を無かった事になんてできない。せめて、せめて牛を…!

そんな思いで、重要モチーフとして牛をコンドウさんに追加作成してもらいました。

出来上がった牛は偶然とはいえ画面上のモチーフの中で唯一こちらを向いていて、なんだか意味深な存在感。
現在の柳原さんを応援している方ほど、この牛の意味に気付いてくれたと信じています。

そんなこんなで完成したのが冒頭画像のポスターです。

ちなみにパンフ表紙&DVD-BOXジャケのバージョンは、皆さんステージを降りて額縁に収まっています。

完全に4人。

柳原さんは気がついたかなぁ…

 


 

映画その物について。
私は客観的な感想を語れる立場ではありませんが、今泉力哉監督の等身大な視点で作られた誠実な映像作品だと思っています。そして現場の皆さんの心身を削る頑張りをはじめ、たくさんの方々にご協力を頂いた甲斐あり、映画は当初の見立てを上回る多くの方々に届ける事が出来ました。
新宿から始まり地方にも続々と広がる追加上映、メンバーの皆様にもご出演頂いた上映イベント、終映後に自然と沸き起こる拍手(映画なのに!)…など、嬉しい出来事があるたびに三輪さん達と喜び合いました。

しかし盛り上がりの一方で、巷では賛否両論の感想が見られた一面も。
「思ってたんと違う!」と感じた方も多くいらっしゃった事でしょう。
三輪さんと今泉さんはバンド全盛期の頃はあまり知らない若者で(特に今泉さんは「さよなら人類」くらいしか知らなかったレベル)、あくまで彼らの「今」の姿に感銘を受けて作ったのがこの映画。
バンドに思い入れのあるファンと視点がずれてくるのは当然なんですよね。
好意的なレビューに「たまファンでない人にこそオススメ」とよく書かれている通り、あまりたまの事を知らない人達への方が響きやすい映画なのかもしれません。

また、柳原さんが出演できなかった事などに対する「未完成感」の感想も多く目にしました。
今思えば、二人ともまっすぐで優しすぎたのかもしれません。

これがしたたかな作り手だったら、わざとぶつかったり時には小狡い手を使ったり…で、強引な取材も敢行していたのかなと。(ドキュメンタリー映画の制作現場を知らないので想像ですが)
良い作品を目指す上でどれが正解なのかは私にはわかりません。一つ断言できるのは「私の大好きな人達の姿を、丁寧に大切に残してくれてありがとう」という事です。

それでもやっぱり「もっと違うのが見たかった!」と思われた方。
嫌味でもなんでもなく、別の「たまの映画」を作ってみてはいかがでしょうか?
たまに影響を受けた世代が各業界で力をつけてきている時代です。
実際、舞台や映像方面で彼らを起用するケースも増えてきています。
私も滝本さんの本を作ったように、いろんな人達が彼らに触発された作品を世に出していけば…それはとっても素敵な事だと思います。

 


 

この制作メモは何年も前に書いた物でUPするタイミングを失いお蔵入りにしていましたが、2017年5/23~6/3 高円寺UnKnowen Theaterにて再上映されるとの事で、加筆修正してUPする事にしました。
映画の撮影は2009年。もうすっかり昔話です。
今泉監督、三輪プロデューサーは当時20代。私は30代前半。若い。元気だった。物知らずだった(少なくとも私は)。
みんな当時からいろいろ変わっています。
という事は、たまの皆さんや取り巻く状況もそれなりに変わっているはず。
それを踏まえながら映画を見るのも面白いかもしれません。
そして皆さん2017年現在もしっかり音楽活動を続けられていて、そこは変わっていない嬉しい事実です。

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